ルネサンス
黒死病の影響で激減したイングランドの人口は徐々に回復し、1520年には250万人だったのが、1750年には600万人になりました。人口が倍増したイングランドでは経済活動が活発になり、それによって社会構造が二極化するようになります。上流階級の人々は富を蓄えるようになり、土地、屋敷、家具などの物欲に加えて、教養といった知的欲求を満たそうという動きが活発になりました。民間の富裕層が中心になって多くの学校が増設され、富裕層の子どももまた、大学に進学、知識を蓄えるようになりました。このような社会構造の変化に呼応してイングランドでもルネサンスの機運が高まるようになります。
もともと、ルネサンスは”再生”を意味し、古代ギリシャ・ローマの文明を復興することによって、新しい価値観を創造しようとする運動で、それまでの神中心の中世キリスト教会の世界観にかわって、人間中心の世界観や科学的な見地での物事を見ようとする動きです。14世紀にイタリアで最盛期を迎えた後、ドイツ・フランス・スペインをなどを経て、16世紀初頭にイングランドに波及しました。文芸・倫理・教育・政治・軍事科学等に関する書物はギリシア語やラテン語で書かれており、新たな概念を表す多くの語彙を翻訳する必要が出てきたのです。しかしながら、それらの抽象的な概念や思想、専門用語を語彙の不足していた未熟な英語に訳す作業は、学者にとって難航を極め、いっそのことそのまま活かして借用してしまおうという動きになりました。他原語の耳慣れない奇妙な語を借用することは、学者の象徴たる文房具の名前を取って「インク壺用語」と呼ばれました。なんとなく自分の知識をひけらかして、知ったかぶりになったような気取った言葉を使うと揶揄されたわけですね。今で言うと、ビジネス用語を多様している人を揶揄する感覚と似ている感じかもしれません。それでも、16世紀から17世紀にかけてヨーロッパの交易がさかんに行われていたことにより、ギリシア語・ラテン語・フランス語・イタリア語・スペイン語など多くの言語が借用されていきました。
また、教育の普及によって、識字率の向上、印刷技術の確立により1つの書物が千部、万部と印刷されて人々の間に浸透しました。こうして、英語の綴りや語法、文法が平準化することになったのです。
複合語・派生語の誕生
他国から大量に言語が流入してくる中で、従来からあったゲルマン語由来のstart、フランス語由来のcommenceに加えて、ラテン語由来のinitiateが輸入されるなど、多くの類義語が生まれ、語彙が拡大するようにもなります。英語はその歴史上、ノルマン征服やルネサンスを経て、多くの言語に接触してきた結果、多くの類義語を蓄積していったのです。歴史を振り返ると、英語の基礎となっているのはアングロ・サクソン語で、アングロ・サクソン語由来の単語のことを本来語(native word)と呼びますが、本来語と借用語の類語を以下の表にまとめていました。
古英語(本来語) | フランス語(借用語) | ラテン・ギリシア語(借用語) |
help | aid | assistance |
time | age | epoch |
go | depart | exit |
fair | beautiful | attractive |
gift | present | donation |
fear | terror | trepidation |
ask | question | interrogate |
このように、見てみると古英語(本来語)は、シンプルで短い言葉が多いように見えます。コミュニケーションを図るうえで、生活に根差した実用的な口語ベースの言葉として、その方が都合がよかったのでしょう。聞くところによると、現代英語でもっとも一般的に用いられる基本単語100のすべてが古英語の時代に生まれていたそうです。
「中学英語を理解していれば日常会話をこなせる」とよく言われるのは、こういうことかもしれません。
また、語彙の拡大には他原語からの借用語だけでなく、単語を組み合わせて複合語を作ったり、単語の部品を組み合わせて派生語を作ったりすることもりました。この新語創造の手段はあらゆる言語で一般的であり、日本語でも漢字の組み合わせや若者言葉など、それ自体の意味は分からなくても、ある程度の意味が類推できてしまうことがありますね。
複合語の例でいうと、windowは古北欧語でwid eyeを意味していた単語が、古英語期に取り入れられて一語になったもので、壁に開けた外を見るための風穴が原義です。ほかにもairport、dropoutなどがあります。日本語でも「耕す」は「田返す」から転じたものとされていますが、現在では一語とみなされています。
次に派生語の例で言うと、古英語期に使われていたwith-やover-をもとに、withdraw、withhold、overlook、overtakeなどの語がつくられます。また古英語には無かった組み合わせで、outcast、outgrow、outputなどといった語も生み出されます。今ではない古英語の前置詞であるa-をもとにasleep,aloud,alive,akinなどといった語がつくられたりもします。a-はもともとonやofを意味しており、aboardやon boardがほぼ同じ意味になることからも分かると思います。be-もby-などを意味しており、becauseもby cause、behalfはby sideからの語です。
ラテン語やギリシャ語由来の接頭辞
前述のようなゲルマン語由来の接頭辞を除いて、現代で使われている接頭辞のほとんどは、中英語期以降にラテン語やギリシア語からもたされたものです。中英語期にはラテン語から入ってきたsecureはcareを意味するcureにse-がついて成り立っています。se-はseparateのse-から想像できるように「離れて」を意味します。
否定には古英語からあったun-に加えて、impossibieのin-やnonsenceのnon-などのラテン語由来の否定辞や、さらにamoral(道徳のない)などのギリシャ語由来の否定辞であるa-も入ってきて多くの語が作られました。
そして、17世紀以降のイギリスの帝国主義政策により、大航海に乗り出して植民地などから様々な新しい言葉を取り入れていくようになります。人々は新世界で多種多様な生物に出会い異文化を目にして、それを表すエキゾチックな言葉を英語式に綴ってイングランド本国に持ち帰りました。例を挙げると
・ネイティブアメリカンの言語から:racoon, tomahawk, skunkなど
・メキシコから:chocolae, coyote, tomatoなど
・キューバから:barbecue,hammock.potato,tobaccoなど
・ペルーから:alpaca,puma,condorなど
・ブラジルから:jaguar, poncho, tapiocaなど
・インドから:cuury,china,jungle,indigo,mangoなど
などなど
このようにして、英語は世界のあちらこちらに移植され、新たな概念の導入とともに、その土地その土地の語彙も入って、拡大。英語はルネサンスと科学革命、帝国主義の歴史を経て、成熟した言語へと変貌を遂げ、近代英語(1500年~1900年)が確立されていき、文法や単語が統一されるようになりました。
現代英語
現代英語は、1900年以降から今日の英語を指し、近代英語をより簡略化したものです。第2次世界大戦でアメリカが戦勝国として世界経済をリードするようになると、世界中の人々が英語を使ってビジネスを始めるようになり、表現の単語が統一されたり、文法の一部が省かれたりしながら、より洗練されて、より効率的な表現の為の英語が確立され、今日の私たちが学ぶ英語に至るわけです。
以上、英語の歴史を大急ぎで学習してみました。本内容の参考文献を下記に記します。
・「ベーシック英語史」(家入葉子)
・「語彙力アップの決め手!英単語語源ネットワーク」(クリストファー・ベルトン/長沼君主)
・「英語の「なぜ?」に答えるはじめての英語史」(堀田隆一)
・「歴史をたどれば英語がわかる」(宗宮喜代子)
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